はじめに
JCSS認定事業者では、認定を取得して終わりではありません。
認定を維持していくためには審査を受け、マネジメントシステムや技術能力が適切に維持されていることを確認してもらう必要があります。
しかし、これからJCSSの審査を受ける方の中には、
「JCSS認定審査では何を確認されるの?」
「技術要員にはどんな質問をされる?」
「立会い校正では何をする?」
「審査前に何を準備しておけばいい?」
と不安に感じている方も多いのではないでしょうか。
私はJCSS認定事業者で技術要員として校正業務に携わり、実際にJCSSの更新審査を受けた経験があります。
この記事では、実際にJCSS更新審査を受けた経験をもとに、審査の流れや技術項目で受けた質問について解説します。
なお、認定範囲や審査内容、事業者によって確認される内容は異なります。
この記事で紹介する質問は、審査員の発言を一字一句再現したものではなく、私が実際に受審した際に聞かれた内容を、覚えている範囲で趣旨が伝わるようにまとめたものです。
この記事で分かること
- JCSS認定審査とは何か
- 実際に受けた更新審査の流れ
- 技術項目で実際に聞かれた質問
- 技術要員の力量管理
- 常用参照標準の管理
- 校正環境の管理
- 試験所間比較について
- 立会い校正とは何か
- 実際に受審して感じた重要ポイント
JCSS校正そのものについて知りたい方は、先にこちらの記事をご覧ください。
▶ JCSS校正とは?一般校正との違いやメリットを実務経験者が分かりやすく解説
JCSS認定審査とは?
JCSSは、計量法に基づく校正事業者登録制度です。
JCSSの登録・認定に関係する審査では、校正事業者が要求事項に基づいて適切なマネジメントシステムを運用し、必要な技術能力を備えているかなどが確認されます。
重要なのは、単に文書や手順書が整備されているだけではないということです。
実際の業務が決められたルールに従って行われているか、技術要員が必要な力量を備えているか、測定結果の信頼性を確保できているかなど、実際の運用も確認されます。
「手順書がある」だけではなく、「実際にその手順どおり適切に運用されているか」が重要です。
私が実際に受けたJCSS更新審査の流れ
私が経験した更新審査は、2日間にわたって実施されました。
1日目:品質項目・技術項目の確認
1日目は、大きく
品質項目と技術項目に分かれて確認が行われました。
私は技術要員として、技術項目の審査に参加しました。
技術項目では、技術要員の力量管理や標準器の管理、校正環境、測定方法などについて質問を受けました。
また、更新審査の3か月ほど前に書類を提出し、審査員から書類についての質問があるのでそれの回答を再度確認する時間もありました。
2日目:立会い校正
2日目には、審査員の前で実際の校正作業を行う立会い校正を実施しました。
普段行っている校正業務について、決められた手順に従って適切に実施できているかなどを実際の作業を通して確認されます。
私の事業所では、立会い校正担当者と審査員が試験室に入り、その他の技術要員や品質要員(ラボラトリマネジメント)は外から見ていました。

JCSS更新審査で実際に聞かれた質問
ここからは、私が技術項目の審査に参加した際に、実際に確認された内容を紹介します。
すべての質問を記録していたわけではないため、現在覚えている内容になります。
また、審査によって質問内容は異なるため、「この質問を覚えれば審査に通る」というものではありません。
重要なのは、それぞれの質問が「何を確認しようとしているのか」を理解することだと思います。
① 新しく技術要員を任命するときの判断基準
印象に残っている質問の一つが、
「新しく技術要員を任命するとき、どのような基準で判断しているか」
という趣旨の質問です。
校正業務では、担当者を教育しただけで直ちに必要な力量が備わったとは限りません。
必要な教育や訓練を受け、担当する校正業務を適切に実施できる能力があることを、事業者としてどのように確認しているのかが重要になります。
技術要員を任命する際には、「何をもって必要な力量があると判断するのか」を明確にしておくことが重要です。
② 技術要員の力量をどのように管理しているか
技術要員を任命した後の力量管理についても質問を受けました。
例えば、「技術要員の力量をどのように管理しているか」
という趣旨の内容です。
技術要員として一度認められれば、それで終わりではありません。
担当する業務に必要な力量を維持できているかを継続して管理することも重要になります。
③ どのように力量を判断しているか
②と関連して、
「技術要員に必要な力量があることを、どのように判断しているか」
という趣旨の確認もありました。
ここで私が重要だと感じたのは、
「教育を実施したこと」と「力量があること」は同じではない
という点です。
教育記録が存在するだけではなく、実際に業務を適切に実施できることをどのように評価しているのかまで説明できる必要があります。
教育を受けたことと、必要な力量を有していることは分けて考える必要があります。
④ 常用参照標準をどのように管理しているか
校正結果の信頼性を確保するうえで重要になるのが、校正に使用する標準器の管理です。
審査では、
「常用参照標準をどのように管理しているか」
という趣旨の質問を受けました。
標準器は校正業務の基準となるため、その状態を適切に管理する必要があります。
⑤ 社外校正へ出す前後の測定値の妥当性をどう確認するか
常用参照標準に関して、さらに具体的な質問もありました。
それが、
「常用参照標準を社外校正へ依頼する前と、校正から戻ってきた後で、機器の測定値の妥当性をどのように確認しているか」
という趣旨の質問です。
これは特に印象に残っています。
標準器を定期的に外部校正へ出しているから、それだけで管理が完了するわけではありません。
校正前後の状態を確認することで、前回の校正から今回の校正までの期間についても、標準器が適切な状態で使用されていたかを評価する考え方が重要になります。
標準器管理では「校正に出した」という事実だけでなく、校正前後の状態が妥当であるかを確認することも重要です。

⑥ 校正場所の気温・湿度をどのように管理しているか
測定では、環境条件が測定結果に影響することがあります。
そのため審査では、
「校正する場所の気温や湿度をどのように管理しているか」
という趣旨の質問を受けました。
単に温度計や湿度計を設置するだけではなく、
「どのように監視しているのか」
「基準から外れた場合はどうするのか」
「どのように記録しているのか」
など、実際の管理方法を理解しておくことが重要です。
測定環境は「測っているか」だけでなく、「適切な環境をどのように維持・確認しているか」が重要です。
⑦ 試験所間比較では測定方法を全く同じにしているのか
試験所間比較についても質問を受けました。
覚えているのは、
「試験所間比較をする際、測定方法は全く同じなのか」
という趣旨の質問です。
試験所間比較について、「実施しています」という事実だけを知っているのでは不十分です。
どのような目的で実施するのか、どのような条件・方法で比較するのか、得られた結果をどのように評価するのかなど、実際の仕組みを技術要員自身が理解しておくことが重要だと感じました。
⑧ 校正前と校正後の製品をどう見分けているか
技術的な測定方法だけでなく、校正品の管理についても確認されました。
質問されたのは、
「校正する前の製品と、校正した後の製品をどのように見分けているか」
という趣旨の内容です。
校正対象品を複数取り扱う場合、未校正品と校正済み品を取り違えると重大な問題につながります。
そのため、識別方法や保管場所などを明確にし、取り違えを防止する仕組みが必要になります。
JCSSでは測定技術だけでなく、校正品を適切に識別・管理することも重要です。
⑨ 抵抗測定時の熱起電力にどう対処しているか
私が受けた質問の中には、実際の測定技術に踏み込んだものもありました。
抵抗測定について、
「抵抗測定の際に発生する熱起電力に対して、どのように対処しているか」
という趣旨の質問を受けました。
異種金属の接続部などに温度差があると熱起電力が発生し、微小な電圧が測定に影響を与える場合があります。
特に高精度な抵抗測定では、このような影響要因を考慮する必要があります。
ここで重要なのは、単に校正手順を暗記して作業することではありません。
「なぜこの測定方法なのか」
「何が測定結果に影響するのか」
まで理解したうえで校正を行う必要があります。
審査を受けて特に感じたのは、「手順どおり測定できる」だけでなく、「なぜその操作が必要なのか」を技術要員自身が理解しておくことの重要性です。
実際の質問を9項目に整理すると
| 分類 | 実際に確認された内容 |
| 技術要員 | 新しく技術要員を任命する際の判断基準 |
| 力量管理 | 技術要員の力量をどう管理しているか |
| 力量評価 | 必要な力量があることをどう判断するか |
| 標準器管理 | 常用参照標準をどのように管理しているか |
| 妥当性確認 | 社外校正前後の測定値をどう確認するか |
| 環境管理 | 校正場所の温度・湿度をどう管理するか |
| 試験所間比較 | 測定方法や比較条件をどう考えているか |
| 校正品管理 | 校正前・校正後の製品をどう識別するか |
| 測定技術 | 抵抗測定時の熱起電力へどう対処するか |
質問内容を見ると、「知識を覚えているか」だけではなく、日常業務をどのような根拠で運用しているのかを確認する内容が多かったと感じます。
2日目に実施した立会い校正
更新審査2日目には、立会い校正を実施しました。
立会い校正では、審査員が実際の校正作業を確認します。
技術要員としては、普段実施している校正を、決められた手順に従って確実に行うことが重要です。
また、単に測定器を操作できればよいというものではありません。
測定条件、使用する標準器、環境条件、記録、校正品の取り扱いなど、一連の校正業務について適切に実施する必要があります。
立会い校正中に聞かれたこと
立会い校正中に質問されることはそこまで多くは無いです、しかもそこまで踏み込んだことは聞かれません。具体的には、
- 校正に使用する機器について
- 配線について
私の時は、審査員からアドバイスをもらうことが多かったです。
「審査員が特に確認していたところ」
校正中に審査員の方をしっかり確認する余裕はありませんでしたが、印象に残ったものは
- 手順書通りに行っているか
- 気温や湿度が適切な状態で行われているか。
- 校正品の保管場所について
など、普段通りに行っていれば困る内容ではありませんでした。
実際に更新審査を受けて感じたこと
JCSS更新審査を実際に受けて感じたのは、審査直前だけ勉強すればよいものではないということです。
技術要員の力量管理、標準器管理、環境管理、校正品の識別などは、すべて普段の校正業務とつながっています。
そして審査では、「やっています」だけではなく、
「なぜそうしているのか」
「どのように確認しているのか」
「何を根拠に判断しているのか」
まで説明できることが重要だと感じました。
JCSS認定審査は、審査のためだけに特別なことをするのではなく、普段の校正業務が適切に運用されているかを確認する機会だと感じました。
JCSS認定審査前に技術要員が確認しておきたいこと
私自身の経験を踏まえると、技術要員は少なくとも次のような内容について、自分の言葉で説明できるようにしておくことが大切です。
- 自分が担当する校正方法
- 技術要員の力量評価・管理方法
- 使用する標準器とその管理方法
- トレーサビリティ
- 測定環境の管理
- 測定結果に影響する要因
- 校正品の識別方法
- 異常が発生した場合の対応
- 試験所間比較など技術能力を確認する活動
- 関係する手順書や記録
ここで大切なのは、回答を丸暗記することではありません。
「この質問が出たら、この回答」と暗記するのではなく、自社の仕組みと自分の校正業務を理解しておくことが最も重要です。
JCSS認定審査を経験するメリット
審査は緊張する場面もありますが、技術要員にとって学べることも多くあります。
自分では当たり前だと思っていた作業について「なぜそうしているのか」を改めて考える機会になります。
また、
- 校正技術への理解が深まる
- ISO/IEC 17025への理解が深まる
- 自社の管理方法を見直せる
- 測定の信頼性について考える機会になる
- 技術要員として必要な知識を整理できる
といったメリットもあると感じています。

JCSS認定審査についてよくある疑問
技術要員には質問がありますか?
私が実際に受けた更新審査では、技術項目についてさまざまな質問を受けました。
力量管理や常用参照標準、環境管理だけでなく、抵抗測定時の熱起電力への対応など、実際の測定技術に関する質問もありました。
審査前は質問と回答を暗記した方がいい?
丸暗記よりも、普段自分が行っている業務について「なぜそうするのか」まで理解することが重要だと感じます。
また、規定から探して答える項目が多いので、丸暗記する必要は全くありません。
審査員も見つけるまで待ってくれます。
立会い校正はありますか?
私が経験した更新審査では、2日目に立会い校正を実施しました。
ただし、具体的な審査内容や日程などは状況によって異なる可能性があります。
品質保証との関係
JCSS認定審査で確認される内容を見ると、品質保証の考え方とも深く関係していることが分かります。
技術要員の力量、標準器、環境、手順書、記録などを適切に管理することは、信頼できる校正結果を継続して提供するための仕組みづくりだからです。
品質保証の役割について詳しく知りたい方はこちらの記事も参考にしてください。
▶ 品質保証の仕事内容とは?役割や業務内容を現役経験者がわかりやすく解説
まとめ
JCSS認定審査では、文書や記録だけではなく、実際の業務が適切に運用されているか、技術要員が必要な力量を備えているかなどが確認されます。
私が経験した更新審査は2日間あり、1日目は品質項目と技術項目についての確認、2日目には立会い校正を実施しました。
技術項目では、
技術要員の任命・力量管理、常用参照標準の管理、社外校正前後の妥当性確認、温湿度管理、試験所間比較、校正品の識別、抵抗測定時の熱起電力への対応
などについて質問を受けました。
実際に審査を経験して特に重要だと感じたのは、手順を覚えるだけではなく、その作業を「なぜ行うのか」を理解することです。
日頃から自分の業務と手順の意味を理解し、根拠をもって説明できる状態にしておくことが、JCSS認定審査への重要な準備だと感じます。
今後もこのブログでは、JCSS校正、ISO/IEC 17025、測定の不確かさ、一般計量士など、実際の業務経験を交えながら解説していきます。
JCSS校正の基本から知りたい方はこちら



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