はじめに
JCSSやISO/IEC 17025、校正について勉強すると、避けて通れない言葉があります。
それが、
「測定の不確かさ」
です。
初めて勉強する方の中には、
「不確かさって何?」
「誤差とは違うの?」
「なぜ測定値だけではダメなの?」
「計算が難しそう……」
と感じる方も多いのではないでしょうか。
私自身、JCSS認定事業者で技術要員として校正業務に携わる中で、測定の不確かさについて学びました。
しかし、初めて説明を受けたときは、正直ほとんど理解できませんでした。
そして現在でも、測定の不確かさについて「完全に理解できた」とは思っていません。
それくらい奥が深く、最初は難しく感じやすい分野です。
測定の不確かさは、最初から難しい計算を理解しようとするより、「なぜ不確かさを考える必要があるのか」を理解するところから始めると分かりやすくなります。
この記事では、私自身が最初につまずいた経験も踏まえて、測定の不確かさの基本的な考え方を初心者向けに解説します。
この記事で分かること
- 測定の不確かさとは
- なぜ測定値に不確かさが必要なのか
- 誤差と不確かさの違い
- 不確かさを生む主な要因
- タイプA・タイプBの考え方
- 標準不確かさとは
- 合成標準不確かさとは
- 拡張不確かさとは
- JCSS・ISO/IEC 17025との関係
- 初心者が最初に理解したいポイント
ISO/IEC 17025について先に知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
▶ ISO/IEC 17025とは?JCSSとの関係や要求事項を実務目線でわかりやすく解説
測定の不確かさとは?
測定を行うと、例えば、
10.000 V
という測定結果が得られたとします。
この数字を見ると、
「本当の値は正確に10.000 Vなんだ」
と思ってしまうかもしれません。
しかし、実際の測定にはさまざまな要因が影響します。
例えば、
- 使用する測定器
- 標準器
- 測定の繰り返しによるばらつき
- 測定器の分解能
- 温度などの環境条件
- 測定方法
などです。
そのため、測定値を一つの数字だけで考えるのではなく、測定結果にどの程度のばらつきがあり得るのかを考える必要があります。
これが測定の不確かさを理解する第一歩です。
測定の不確かさとは、測定結果に伴う「ばらつきの程度」を評価するための考え方です。

これらを考慮して
「測定の不確かさ」を評価
なぜ測定値だけではダメなのか?
同じものを同じ測定器で測っても、毎回まったく同じ値になるとは限りません。
例えば、あるものを5回測定して、
10.001
10.000
9.999
10.001
9.999
という結果になったとします。
大きな違いはありませんが、少しずつ値が違います。
これが測定値のばらつきです。
さらに実際の校正では、繰り返し測定だけでなく、使用する標準器や測定器の分解能など、さまざまな要因を考える必要があります。
測定結果は一つの数字だけを見るのではなく、その結果がどの程度信頼できるのかまで考えることが重要です。
「誤差」と「不確かさ」は同じではない
初心者が特に混乱しやすいのが、誤差と不確かさの違いです。
私自身も、最初はここが分かりにくい部分でした。
簡単に整理してみます。
| 項目 | 考え方 |
| 誤差 | 測定値と基準となる値との差 |
| 不確かさ | 測定結果に伴うばらつきの程度を表すもの |
例えば、
基準となる値:10.000 V
測定値:10.002 V
だった場合、その差について考えるのが誤差です。
一方、不確かさでは、
「この測定結果にはどの程度のばらつきが伴っているのか」
を考えます。
「誤差=不確かさ」ではありません。この2つを分けて考えることが、不確かさを理解する第一歩です。
測定の不確かさは何から生まれる?
では、測定結果の不確かさには、どのような要因があるのでしょうか。
実際には測定内容によって異なりますが、代表的なものを見てみます。
① 繰り返し測定によるばらつき
同じものを何度も測定すると、測定値が少しずつ変化することがあります。
このばらつきも、不確かさを考える要因になります。
② 標準器
校正で使用する標準器にも、その校正結果に不確かさがあります。
つまり、基準として使用する側にも不確かさが存在します。
③ 測定器の分解能
例えば表示が0.1単位までしか表示できない測定器では、それより細かい値をそのまま読み取ることはできません。
このような分解能も考慮する要因になります。
④ 環境条件
測定によっては、
温度・湿度・振動など
の環境条件が測定結果に影響することがあります。
⑤ 測定方法
測定方法や測定条件によっても、結果に影響が生じる場合があります。
不確かさの要因は一つではなく、測定結果に影響するさまざまな要因を考える必要があります。

不確かさの評価にはタイプAとタイプBがある
ここから少し専門的になります。
不確かさの評価方法では、タイプA評価とタイプB評価という言葉が出てきます。
難しく感じますが、まずは大まかな違いを理解すればOKです。
タイプA評価とは?
タイプA評価は、繰り返し測定などから得られたデータを統計的に分析して評価する方法です。
例えば同じものを複数回測定して、その測定値のばらつきから評価するイメージです。
タイプB評価とは?
タイプB評価は、繰り返し測定の統計的解析以外の情報を使って評価します。
例えば、
- 校正証明書
- 測定器の仕様
- 分解能
- 過去のデータ
- 技術的な情報
などを利用します。
| 評価 | 主な考え方 | 例 |
| タイプA | 統計的な分析による評価 | 繰り返し測定 |
| タイプB | その他の利用可能な情報による評価 | 校正証明書、仕様、分解能など |
タイプA・タイプBは「不確かさの種類」というより、不確かさをどのような情報から評価したかという分類として考えると分かりやすくなります。
標準不確かさとは?
それぞれの不確かさ要因は、そのままでは同じように扱えない場合があります。
そこで、それぞれの要因を標準偏差に相当する形で表したものが標準不確かさです。
ここで初めて勉強する方は、
「急に難しくなった……」
と思うかもしれません。
私自身も、このあたりから一気に難しく感じました。
最初は、
「さまざまな不確かさ要因を、組み合わせられる共通の形にしていく」
くらいのイメージから始めてもよいと思います。
最初から計算式を暗記するより、「それぞれの不確かさを評価して、組み合わせていく」という全体像を理解することが大切です。
合成標準不確かさとは?
測定には複数の不確かさ要因があります。
例えば、
繰り返し測定
+
標準器
+
分解能
+
環境条件
などです。
これらの標準不確かさを適切に組み合わせて求めるものが、合成標準不確かさです。
独立した要因を扱う基本的なケースでは、それぞれを単純に足すのではなく、二乗和の平方根として組み合わせる考え方が使われます。
例えば単純化すると、
uc = √(u₁² + u₂² + u₃² …)
という形です。
ここでは計算式そのものを覚える必要はありません。
「不確かさ要因を洗い出す → 標準不確かさとして評価する → 適切に合成する」という流れをまず理解しましょう。
拡張不確かさとは?
JCSSの校正証明書などで不確かさを見ると、
U = ○○
k = 2
といった表記を見ることがあります。
ここで登場するのが拡張不確かさです。
基本的には、合成標準不確かさに包含係数 kを掛けて求めます。
U = k × uc
例えば、
合成標準不確かさ:0.05 V
包含係数:k = 2
と仮定すると、
U = 2 × 0.05 = 0.10 V
となります。
ただし、「k=2なら必ず○%」と機械的に覚えるより、どのような前提でその包含確率が考えられているのかを理解することが重要です。

不確かさバジェットとは?
不確かさについて勉強すると、不確かさバジェットという言葉も出てきます。
これは、測定結果に影響する不確かさ要因を整理し、それぞれの評価方法や標準不確かさなどをまとめたものです。
例えば、
| 不確かさ要因 | 評価方法 | 内容 |
| 繰り返し測定 | タイプA | 測定値のばらつき |
| 標準器 | タイプB | 校正証明書等 |
| 分解能 | タイプB | 測定器の表示分解能 |
| 環境条件 | 条件による | 温度等の影響 |
実際には、さらに確率分布、除数、感度係数などを考慮して評価する場合があります。
最初から全部理解しようとすると難しいので、まずは、
「何が測定結果に影響するのかを整理する表」
と考えるとイメージしやすいと思います。
JCSSと測定の不確かさ
測定の不確かさは、JCSS校正を理解するうえでも非常に重要です。
JCSSでは、単に、
「この測定器を校正しました」
だけではなく、測定結果の信頼性を示すために不確かさが重要になります。
JCSS校正証明書を見る機会があれば、校正結果だけでなく不確かさがどのように記載されているかにも注目してみると理解が深まります。
JCSS校正について詳しくはこちらで解説しています。
▶ JCSS校正とは?一般校正との違いやメリットを実務経験者が分かりやすく解説
ISO/IEC 17025と測定の不確かさ
ISO/IEC 17025でも、測定の不確かさは重要なテーマです。
特に校正を行う機関では、校正における測定の不確かさを評価する必要があります。
ただし、不確かさだけを単独で考えるのではありません。
- 技術要員の力量
- 標準器
- 計量トレーサビリティ
- 環境条件
- 校正方法
- 結果の妥当性
なども、信頼できる測定結果を提供するためにつながっています。
測定の不確かさは、ISO/IEC 17025における「測定結果の信頼性」を考えるうえで重要な要素の一つです。
ISO/IEC 17025の全体像はこちらの記事で解説しています。
▶ ISO/IEC 17025とは?JCSSとの関係や要求事項を実務目線でわかりやすく解説
私が「測定の不確かさ」を初めて学んだとき
私が初めて測定の不確かさについて説明を受けたときは、正直ほとんど理解できませんでした。
標準偏差、確率分布、標準不確かさ、合成標準不確かさ、包含係数など、それまで聞き慣れていなかった言葉が次々と出てきます。
ISO/IEC 17025に関わり始めた当初は、関連する会議に参加しても内容そのものを理解するのが難しい状態でした。
その中でも、測定の不確かさは特に難しく感じた分野です。
そして技術要員として実際の校正業務を経験した現在でも、「測定の不確かさを完全に理解している」とは思っていません。
しかし、校正業務を繰り返し行うことで、
「標準器の不確かさがなぜ関係するのか」
「なぜ繰り返し測定するのか」
「なぜ環境条件を管理するのか」
といった個々の作業と、不確かさとのつながりが少しずつ理解できるようになりました。
私自身、規格や計算式だけでは理解できなかったことが、実際の校正業務と結び付けることで少しずつ理解できるようになりました。
不確かさを勉強するときに大切だと感じること
私自身の経験から、初心者の方がいきなり難しい数式から入る必要はないと思っています。
最初は、
① 測定値にはばらつきがある
↓
② ばらつきにはさまざまな要因がある
↓
③ それぞれの要因を評価する
↓
④ 評価した不確かさを適切に組み合わせる
↓
⑤ 測定結果とともに不確かさを考える
という全体の流れを理解することが大切です。
その後で、標準偏差、確率分布、感度係数、自由度などを一つずつ勉強していけばよいと思います。
不確かさは「計算方法を覚えること」から始めるのではなく、「なぜその計算が必要なのか」を理解してから学ぶ方が分かりやすいと感じています。
測定の不確かさについてよくある疑問
不確かさと誤差は同じですか?
同じではありません。
誤差は測定値と基準となる値との差に関係する考え方で、不確かさは測定結果に伴うばらつきの程度を評価する考え方です。
タイプAとタイプBはどちらが重要?
どちらか一方が重要というものではありません。
測定に応じて必要な不確かさ要因を検討し、それぞれ適切な方法で評価することが重要です。
k=2とは何ですか?
kは包含係数です。
合成標準不確かさに包含係数を掛けることで、拡張不確かさを求めます。
不確かさは小さければ小さいほどいい?
単純に数字だけを小さくすればよいわけではありません。
重要なのは、必要な要因を適切に考慮し、技術的な根拠に基づいて妥当に評価することです。
まとめ
測定の不確かさは、初めて勉強すると非常に難しく感じる分野です。
私自身も最初はほとんど理解できず、現在でも学ぶことが多くあります。
しかし、最初から複雑な計算を理解しようとする必要はありません。
まずは、
測定にはばらつきがある
↓
測定結果にはさまざまな要因が影響する
↓
それぞれの不確かさを評価する
↓
適切に組み合わせる
↓
測定結果の信頼性を考える
という流れを理解するところから始めると分かりやすくなります。
測定の不確かさは「難しい計算」そのものが目的ではなく、測定結果がどの程度信頼できるのかを考えるための重要な考え方です。
JCSSやISO/IEC 17025に関わる方は、校正業務と結び付けながら少しずつ理解していくことをおすすめします。
JCSS・ISO/IEC 17025について続けて学びたい方はこちら
▶ JCSS校正とは?一般校正との違いやメリットを実務経験者が分かりやすく解説



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