はじめに
JCSSや校正業務について調べていると、必ずと言っていいほど目にするのが「ISO/IEC 17025」です。
しかし、初めて聞いた方にとっては、
「ISO/IEC 17025って何?」
「ISO 9001とは何が違うの?」
「JCSSとどんな関係がある?」
「認定されると何がすごいの?」
と疑問に感じるのではないでしょうか。
ISO/IEC 17025は、試験所・校正機関の能力に関する重要な国際規格です。
単に品質管理の仕組みを整えるだけではなく、適切な試験・校正結果を生み出す技術能力も重要になります。
私はJCSS認定事業者で技術要員として校正業務に携わり、実際にJCSSの更新審査にも参加しました。
ISO/IEC 17025では、仕組みだけでなく「正しい試験・校正結果を出すための技術能力」が重要になります。
この記事では、ISO/IEC 17025について、JCSSとの関係も含めて初心者の方にも分かるように解説します。
この記事で分かること
- ISO/IEC 17025とは
- ISO 9001との違い
- JCSSとISO/IEC 17025の関係
- ISO/IEC 17025の要求事項
- 技術要員の力量とは
- 設備・標準器管理とは
- 計量トレーサビリティとは
- 測定の不確かさとは
- 実務で重要だと感じるポイント
JCSSについて先に知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
▶ JCSS校正とは?一般校正との違いやメリットを実務経験者が分かりやすく解説
ISO/IEC 17025とは?
ISO/IEC 17025は、試験所及び校正機関の能力に関する一般要求事項を定めた国際規格です。
試験所や校正機関が、
- 適切なマネジメントシステムを運用している
- 必要な技術能力を持っている
- 妥当な試験・校正結果を出せる
ことなどを示すための重要な規格です。
ISO/IEC 17025というと、非常に難しい規格に感じるかもしれません。
しかし、校正業務を例にすると、
「誰が測定するのか」
「何を使って測定するのか」
「どんな環境で測定するのか」
「その測定結果は信頼できるのか」
といったことを適切に管理するための要求事項だと考えると、イメージしやすくなります。
ISO/IEC 17025は、試験・校正結果の信頼性を支えるための重要な規格です。
ISO/IEC 17025とISO 9001の違い
ISO/IEC 17025とISO 9001は、どちらもマネジメントに関係する規格なので混同されることがあります。
しかし、目的や対象には違いがあります。
| 比較項目 | ISO 9001 | ISO/IEC 17025 |
| 主な対象 | 幅広い組織 | 試験所・校正機関 |
| 主な目的 | 品質マネジメント | 試験・校正能力と結果の信頼性 |
| 技術能力 | 個別の試験・校正能力を直接認定する規格ではない | 重要な要求事項 |
| 測定の不確かさ | 一律に要求されるものではない | 校正では重要 |
| 計量トレーサビリティ | 業務に応じて管理 | 技術面で重要 |
| 人員の力量 | 必要 | 試験・校正の技術能力を含めて重要 |
ISO 9001は、組織が品質を継続的に管理するための仕組みに重点があります。
一方、ISO/IEC 17025では、それに加えて試験・校正を適切に実施するための技術的な能力が非常に重要です。
ISO/IEC 17025の大きな特徴は、マネジメントだけでなく試験・校正に必要な技術能力も重視されることです。

ISO 9001とISO/IEC 17025は、どちらも品質や信頼性に関わる国際規格ですが、重視するポイントが異なります。
ISO 9001は、組織全体の品質マネジメントの仕組みを整え、継続的に改善していくことを重視しています。
一方、ISO/IEC 17025では、マネジメントに加えて、試験・校正を正しく実施できる技術能力や、結果の信頼性を確保することが重要になります。
特に校正業務では、技術要員の力量、標準器の管理、計量トレーサビリティ、測定の不確かさ、環境条件など、測定結果の信頼性に直結する項目が重要です。
ISO/IEC 17025とJCSSの関係
ここは非常に重要です。
JCSSは、日本の計量法に基づく校正事業者登録制度です。
そしてJCSSの認定・登録に関係する技術能力やマネジメントシステムを考えるうえで、ISO/IEC 17025が重要な基準となります。
そのためJCSSについて勉強していくと、
- 技術要員の力量
- 設備・標準器
- 計量トレーサビリティ
- 測定の不確かさ
- 環境条件
- 校正方法
- 結果の報告
など、ISO/IEC 17025につながる内容が数多く出てきます。
JCSSの実務を理解するうえで、ISO/IEC 17025の考え方は非常に重要です。
実際のJCSS更新審査でどのような内容を確認されたのかについては、こちらで詳しく紹介しています。
▶ JCSS認定審査とは?実際に更新審査を受けた技術要員が流れ・質問内容を解説
ISO/IEC 17025の要求事項
ISO/IEC 17025の要求事項は、大きく分けると次のような構成になっています。
- 一般要求事項
- 組織構成に関する要求事項
- 資源に関する要求事項
- プロセスに関する要求事項
- マネジメントシステムに関する要求事項
最初から規格の文章だけを読もうとすると難しく感じるかもしれません。
そこで、ここからは実際の校正業務と関係の深いポイントを中心に見ていきます。

① 技術要員の力量
試験・校正結果の信頼性を確保するためには、業務を担当する人員に必要な力量がなければなりません。
例えば、
- 必要な教育
- 訓練
- 技術・技能
- 経験
- 力量の評価
- 権限付与
などを適切に管理する必要があります。
単に研修を受けただけではなく、実際に担当業務を適切に実施できるかが重要です。
これは私がJCSS更新審査を受けた際にも、実際に確認された内容でした。
「新しく技術要員を任命するときの判断基準」
「力量をどのように管理しているか」
「どのように力量を判断しているか」
といった趣旨の質問を受けました。
「教育を受けた」ことと「必要な力量がある」ことは同じではありません。
② 施設・環境条件の管理
測定結果は、周囲の環境によって影響を受けることがあります。
例えば、
- 温度
- 湿度
- 振動
- ほこり
- 電気的なノイズ
などです。
必要となる環境条件は、実施する試験・校正によって異なります。
重要なのは、必要な環境条件を明確にし、測定結果に悪影響を与えないよう適切に管理することです。
私が更新審査を受けた際にも、
「校正する場所の気温や湿度をどのように管理しているか」
という趣旨の質問を受けました。
環境条件は、記録するだけではなく、測定結果への影響を考えて管理する必要があります。
③ 設備・標準器の管理
校正結果の信頼性を確保するためには、使用する測定器や標準器を適切に管理する必要があります。
例えば、
- 識別
- 校正状態
- 使用履歴
- 保管
- メンテナンス
- 異常発生時の対応
などです。
JCSS更新審査では私自身も、
「常用参照標準をどのように管理しているか」
という趣旨の質問を受けました。
さらに、
「常用参照標準を社外校正に依頼する前と戻ってきた後で、測定値の妥当性をどのように確認しているか」
という内容も確認されました。
標準器は「定期的に校正へ出す」だけでなく、その状態が継続して適切だったかを確認する考え方も重要です。
④ 計量トレーサビリティ
校正について理解するうえで非常に重要なのが、計量トレーサビリティです。
簡単に表現すると、測定結果が校正の連鎖によって適切な基準へつながっている状態を指します。
例えば、
測定対象
↓
使用する測定器
↓
常用参照標準
↓
上位の標準
↓
国家計量標準など
というように、切れ目のない校正のつながりを考えます。
ただし、トレーサビリティは単に「校正証明書がある」というだけの話ではありません。
測定結果、校正、不確かさなどを含めて考えることが重要です。
計量トレーサビリティは、測定結果の信頼性を支える重要な考え方です。

⑤ 測定の不確かさ
ISO/IEC 17025やJCSSを学ぶと、避けて通れないのが「測定の不確かさ」です。
測定結果には、さまざまな要因によるばらつきが存在します。
例えば、
- 測定器
- 標準器
- 測定方法
- 環境条件
- 分解能
- 繰り返し測定
などが測定結果に影響する可能性があります。
測定の不確かさは、こうした測定結果のばらつきに関係する情報を評価するための重要な考え方です。
「誤差」と「不確かさ」は同じ意味ではありません。
高精度な測定では、測定値だけを見るのではなく、その測定結果がどの程度信頼できるのかを考える必要があります。
ここは今後、「測定の不確かさとは?」を1記事使って詳しく解説する価値があります。
⑥ 試験・校正方法
試験や校正では、適切な方法を使用する必要があります。
手順が決められている場合には、その手順を理解して適切に実施することが重要です。
ただし、技術要員として大切なのは、単に手順を暗記することではありません。
私自身、JCSS更新審査で抵抗測定について、
「熱起電力にどのように対処しているか」
という趣旨の質問を受けました。
これは、操作手順だけでなく測定結果に影響する技術的要因を理解しているかという点にもつながります。
「手順書に書いてあるから行う」のではなく、「なぜその操作が必要なのか」を理解することが重要です。
⑦ 校正品の取り扱い
校正を行う際には、預かった校正品を適切に管理する必要があります。
例えば、
- 受付
- 識別
- 保管
- 取り扱い
- 校正前後の区別
- 返却
などです。
私が受けた更新審査でも、
「校正前と校正後の製品をどのように見分けているか」
という趣旨の質問がありました。
複数の校正品を扱う場合、未校正品と校正済み品を取り違えれば重大な問題になります。
測定技術だけでなく、校正品を確実に識別・管理することも信頼性確保の一部です。
⑧ 結果の妥当性をどう確認するか
試験・校正を実施したからといって、それだけで結果が信頼できるとは限りません。
結果の妥当性を確認するための活動も重要です。
その一つとして、試験所間比較などがあります。
私がJCSS更新審査を受けた際にも、
「試験所間比較を行う際、測定方法は全く同じなのか」
という趣旨の質問を受けました。
単に試験所間比較へ参加するだけでなく、
「何を確認するために行うのか」
「結果をどう評価するのか」
まで理解しておくことが大切だと感じました。
ISO/IEC 17025を実務で運用して感じること
私自身、最初はISO/IEC 17025の要求事項を読んでも難しく感じる部分がありました。
しかし、実際に校正業務やJCSS更新審査を経験すると、それぞれの要求事項が普段行っている標準器管理、力量管理、環境管理などにつながっていることが分かるようになりました。
「ISO/IEC 17025を最初に学んだときに難しいと感じたこと」
私がISO/IEC 17025に関わり始めた当初は、出てくる内容のほとんどが初めて聞くことばかりでした。
それまでISO 9001に触れる機会はありましたが、ISO/IEC 17025では技術的な要求事項も多く、最初はかなり難しく感じました。
特に感じたのは、ISO 9001と比べて、校正業務ではより具体的な基準や技術的な根拠が求められるということです。
「だいたいこのように管理している」という曖昧な説明ではなく、
- 何を基準に判断するのか
- どのような方法で確認するのか
- 誰が実施できるのか
- どのような記録を残すのか
- 測定結果の信頼性をどう確保するのか
といったことを明確にする必要があります。
ISO/IEC 17025では、大まかな管理ではなく「何を基準に、どのように判断するのか」を明確にすることが重要だと感じました。
最初の会議はほとんど理解できなかった
私がISO/IEC 17025に関わり始めたのは、まず関連する会議に参加するところからでした。
しかし、最初の会議は正直、話している内容をほとんど理解できませんでした。
専門用語だけでなく、計量トレーサビリティ、標準器の管理、技術要員の力量、測定の不確かさなど、それまで深く関わったことのない内容が次々と出てきたからです。
最初から規格の内容を理解できたわけではありません。
実際の校正業務に携わり、標準器の管理や審査などを経験していく中で、少しずつ
「この要求事項は、この業務につながっているのか」
と理解できるようになりました。
ISO/IEC 17025は、規格だけを読んで理解しようとするより、実際の校正業務と結び付けて考えることで理解しやすくなりました。
測定の不確かさは今でも難しい
中でも特に難しいと感じたのが、「測定の不確かさ」です。
初めて説明を受けたときは、正直ほとんど理解できませんでした。
そして実務を経験した現在でも、測定の不確かさについて完全に理解できているとは思っていません。
不確かさには統計的な考え方だけでなく、測定器の分解能、標準器、測定のばらつき、環境条件など、さまざまな要因が関係します。
そのため、最初からすべてを理解しようとすると難しく感じると思います。
私自身も現在進行形で学んでいる分野です。
分からないことを曖昧なまま「分かったつもり」にせず、一つずつ実務と結び付けながら理解していくことが大切だと感じています。
今後、このブログでも「測定の不確かさ」について、私自身の勉強も兼ねながら初心者にも分かりやすく整理していきたいと思います。
実際に技術要員として仕事をして理解できるようになったこと
ISO/IEC 17025について、最初は分からないことばかりでしたが、実際に技術要員として校正業務を繰り返すことで、少しずつ理解できるようになりました。
特に実務を通して感じたのは、校正そのものの重要性です。
測定器は、ただ測定値が表示されればよいわけではありません。
その測定結果が信頼できるものであるためには、使用する標準器や測定環境、校正方法、技術要員の力量など、さまざまな要素を適切に管理する必要があります。
技術要員として実際に校正を経験することで、「なぜ校正が必要なのか」「なぜここまで管理する必要があるのか」が少しずつ理解できるようになりました。
繰り返し実務を経験することの大切さ
ISO/IEC 17025は、規格を一度読んだだけですべてを理解するのは難しいと感じています。
私自身も、実際の校正作業や標準器の管理などを何度も繰り返し経験することで理解が深まっていきました。
最初は手順どおり作業することに精一杯でも、繰り返していくうちに、
「なぜこの確認が必要なのか」
「この記録は何のために残しているのか」
「この作業が測定結果の信頼性にどうつながるのか」
といったことまで考えられるようになります。
知識だけで理解するのではなく、実務を反復しながら経験と知識を結び付けることが、理解を深めるうえで大切だと感じました。
「維持すること」の難しさも分かった
そして、実際に業務を続けていく中で改めて感じたのが、適切な状態を維持し続けることの難しさです。
一度仕組みを作ったり、一度適切に校正できたりすれば終わりではありません。
技術要員の力量、標準器、設備、環境条件、手順書、記録などを継続して管理し、必要に応じて見直していく必要があります。
これは実際に業務に携わってみて初めて実感した部分でもあります。
品質や技術能力は、一度確立すれば終わりではなく、それを継続して維持することが重要であり、同時に難しい部分でもあります。
一般要求事項についても考え方が変わった
ISO/IEC 17025には、公平性や機密保持に関する一般要求事項があります。
最初は規格の要求事項の一つとして捉えていましたが、実際に業務に携わることで、これらも信頼できる試験・校正活動を行うために必要な考え方だと理解するようになりました。
例えば、校正結果が外部からの圧力や利害関係によって左右されてはいけません。また、業務の中で知り得た顧客情報などを適切に取り扱うことも重要です。
つまり、正確に測定する技術だけがあればよいわけではありません。
技術能力だけでなく、公平性や機密保持まで含めて適切に管理することで、試験所・校正機関としての信頼につながるのだと感じています。
ISO/IEC 17025は「書類を作るための規格」ではない
ISO規格というと、
「手順書を作る」
「記録を残す」
「監査に対応する」
というイメージを持つ方もいるかもしれません。
もちろん文書や記録も重要です。
しかし、それだけが目的ではありません。
技術要員に必要な力量があり、適切な設備を使用し、環境を管理し、適切な方法で試験・校正を行う。
そして、その結果が信頼できること。
こうした仕組みを継続的に運用していくことが重要です。
ISO/IEC 17025は「審査に合格するための仕組み」ではなく、信頼できる試験・校正結果を継続して提供するための仕組みとして考えることが大切です。
ISO/IEC 17025についてよくある質問
ISO 9001を取得していればISO/IEC 17025も満たしている?
同じではありません。
ISO 9001とISO/IEC 17025には共通するマネジメントの考え方がありますが、ISO/IEC 17025では試験・校正機関としての技術能力に関する要求事項も重要になります。
ISO/IEC 17025とJCSSは同じもの?
同じものではありません。
ISO/IEC 17025は国際規格であり、JCSSは日本の計量法に基づく校正事業者登録制度です。
ただし、JCSSの認定・登録においてISO/IEC 17025の要求事項は非常に深く関係します。
技術要員はISO/IEC 17025を全部暗記する必要がある?
規格を丸暗記するより、自分が担当している業務と要求事項がどうつながっているかを理解することが大切です。
私が更新審査を経験した際も、実際の業務について「どのように管理しているのか」「なぜその方法なのか」という視点で説明できることが重要だと感じました。
ISO/IEC 17025を理解するとJCSS審査も理解しやすくなる
ISO/IEC 17025を理解していくと、JCSS認定審査でなぜそのような質問をされるのかも分かりやすくなります。
例えば、
「なぜ技術要員の力量を確認するのか」
「なぜ標準器を管理するのか」
「なぜ温湿度を記録するのか」
「なぜ測定の不確かさを評価するのか」
それぞれが独立した作業なのではなく、信頼できる校正結果を提供するという一つの目的につながっています。
要求事項を単独で覚えるのではなく、「測定結果の信頼性」という目的につなげて考えると理解しやすくなります。
実際の更新審査で受けた質問についてはこちらで詳しく紹介しています。
▶ JCSS認定審査とは?実際に更新審査を受けた技術要員が流れ・質問内容を解説
まとめ
ISO/IEC 17025は、試験所・校正機関の能力に関する重要な国際規格です。
特に、
技術要員の力量
施設・環境条件
設備・標準器
計量トレーサビリティ
測定の不確かさ
試験・校正方法
校正品の取り扱い
結果の妥当性確認
など、信頼できる試験・校正結果を提供するためのさまざまな要求事項があります。
最初は難しい規格に感じるかもしれません。
しかし、実際の校正業務と結び付けて考えると、
「なぜ標準器を管理するのか」
「なぜ力量を評価するのか」
「なぜ環境条件を管理するのか」
という理由が見えてきます。
ISO/IEC 17025を理解するうえで大切なのは、要求事項を暗記することではなく、「なぜ必要なのか」を実際の業務と結び付けて理解することです。
今後も本ブログでは、JCSS、ISO/IEC 17025、測定の不確かさ、計量トレーサビリティ、一般計量士などについて、実務経験を交えながら解説していきます。
JCSSについてさらに詳しく知りたい方はこちらもご覧ください。



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